似た画像を検索する仕組み:AIが「そっくり」を見抜く方法
はじめに:なぜ「そっくり」な画像が見つかるのか
普段、インターネットで何か調べ物をしたり、友人と写真を共有したりする中で、Google画像検索やSNSの機能を使って「これと似た画像を探したい」と思ったことはありませんか。手持ちの写真と同じような景色や、似たデザインの品物、あるいは写っている人物の別の写真などを、瞬時に見つけ出すことができるのは、とても便利です。
しかし、コンピューターはどのようにして「似ている」という感覚を理解し、無数にある画像の中から「そっくり」なものを見つけ出すことができるのでしょうか。人間のように目で見て判断しているわけではありません。この便利な機能の裏側には、AIによる高度な画像認識技術が隠されています。
この記事では、画像検索エンジンが「似ている画像」をどのようにして探し出すのか、その基本的な仕組みについて、難しい数式を使わずに直感的に理解できるよう解説します。
画像を「数値のデータ」として捉える:AIの目
コンピューターは、人間のように画像を「見る」ことはできません。コンピューターにとって画像は、非常に小さな点(ピクセル)が縦横に並んだものであり、それぞれのピクセルが持つ色や明るさの情報が「数値」として記録されたデータに過ぎません。
例えば、真っ赤なリンゴの画像があったとします。この画像を構成する数百万のピクセルそれぞれに、「赤色」を示す数値情報が格納されています。しかし、単にピクセルごとの数値をそのまま比較しても、「リンゴの画像」と「リンゴの画像だが少しアングルが違うもの」を「似ている」と判断するのは困難です。なぜなら、アングルが少し変わるだけで、ピクセルごとの数値は大きく異なってしまうためです。
そこでAIは、画像をそのまま比較するのではなく、その画像の特徴を捉えた「特徴量」という数値の集まりに変換します。これは、まるで画像の中から「これは丸い形をしている」「これは全体的に赤っぽい色だ」「真ん中にヘタがある」といった、その画像ならではの重要な情報を抜き出し、それを数値の羅列として表現するようなものです。例えるならば、画像が持つ「DNA」や「指紋」のようなものでしょう。
(図1:画像から色、形、模様などの特徴が抽出され、数値のベクトルとして表現される様子をイメージした図)
この「特徴量」を抽出するプロセスこそが、AIが画像を理解する上で非常に重要な役割を果たします。単なるピクセル値の羅列ではなく、画像の「本質」を捉えた情報として、コンパクトな数値のセットに置き換えるのです。
「そっくり度」を測る:数値の近さで判断する
画像から「特徴量」という数値の羅列が抽出されたら、次にそれらの特徴量同士を比較することで、「どれだけ似ているか」を判断します。
想像してみてください。もし「丸い形」を数値A、「赤い色」を数値B、「ヘタがある」を数値Cで表したとします。あるリンゴの画像が(A1, B1, C1)という特徴量を持ち、別のリンゴの画像が(A2, B2, C2)という特徴量を持つとします。もしこの2つの画像がそっくりであれば、それぞれの数値の組み合わせ(A1,B1,C1)と(A2,B2,C2)も非常に近い値になるはずです。
AIは、このような複数の数値の組み合わせがどれだけ「近い」かを計算します。これを専門的には「類似度」と呼びますが、要は「数値の近さ」を測るということです。この数値の近さを直感的に理解するために、次のように考えてみましょう。
(図2:特徴量ベクトルを2次元または3次元空間上の点として表現し、距離が近いほど似ていることを示す図。2つのリンゴ画像の点が近い場所に、バナナ画像の点が遠い場所にプロットされるイメージ)
もし、それぞれの画像の特徴量を、まるで地図上の座標のように配置できるとしたらどうでしょうか。非常に似ている画像の特徴量は、地図上で近い場所にプロットされ、似ていない画像の特徴量は遠い場所にプロットされるでしょう。AIは、この「地図上の距離」を計算することで、画像同士の「そっくり度」を判断しているのです。距離が近いほど「似ている」と判断し、遠いほど「似ていない」と判断します。
大量の画像から一瞬で探す仕組み:効率的な検索
ウェブ上には、何十億という膨大な数の画像が存在します。その中から、アップロードされた画像と「そっくり」なものを瞬時に見つけ出すには、非常に効率的な仕組みが必要です。
画像検索エンジンでは、事前にウェブ上にある膨大な数の画像一つ一つから「特徴量」を抽出し、それを巨大なデータベースに保存しています。これは、まるで図書館のすべての本に「内容を要約したインデックスカード」を作っておくようなものです。
ユーザーが検索したい画像をアップロードすると、まずその画像から特徴量を抽出します。次に、この抽出された特徴量を、あらかじめデータベースに保存されている他の画像の特徴量と、非常に高速に比較照合します。そして、「そっくり度」が高い順に画像を並べ替えて、ユーザーに結果として表示するのです。
(図3:ユーザーが画像をアップロード→特徴量抽出→データベースと照合(高速な比較)→「そっくり度」の高い順に結果を表示、という一連のフロー図)
このプロセスは、まるで図書館で特定のテーマの本を探すときに、書棚のすべての本を最初から読み比べるのではなく、インデックスカードを使って瞬時に候補を絞り込むようなものです。このように、事前に情報を整理しておくことで、膨大なデータの中からでも、わずか数秒で関連性の高い情報を見つけ出すことが可能になります。
まとめ:私たちの日常を支える見えない技術
私たちが普段何気なく利用している画像検索の裏側には、画像を数値に変換し、その数値の近さで「似ている」を判断するという、高度で洗練されたAI技術が活用されています。画像を「特徴量」という数値の指紋に置き換え、その数値の距離を測ることで、コンピューターは画像を「理解」し、類似するものを探し出すことができるのです。
この「画像を数値化し、比較する」という基本的な考え方は、画像検索だけでなく、SNSでの顔認識、スマートフォンの写真整理、医療画像の診断支援、自動運転における物体検出など、非常に多岐にわたる分野で応用されています。
今回ご紹介した仕組みは、画像認識技術のほんの一部ですが、AIがどのように私たちの日常を豊かにし、未来の技術を形作っているのか、その一端を理解するきっかけとなれば幸いです。